「公的保険」を知らずに民間保険に入ると損をする
保険の相談でよくあるのが、「民間保険をどれにしようか」と考える前に、公的保険で何がカバーされるかを把握していないケースです。
実は日本の公的保険(社会保険)は、病気・ケガ・死亡・障害など、さまざまなリスクをカバーしてくれます。これを知らずに民間保険を選ぶと、「ダブって払いすぎ」や「必要なところが抜けている」という状況になりがちです。
もうひとつ大切なことがあります。公的保険の多くは「申請しなければもらえない」仕組みになっています。制度を知っておくだけで、いざというときに確実に受け取れるかどうかが変わります。今回は2026年4月時点の制度をもとに、特に家計への影響が大きい4つの仕組みをくわしく解説します。
まず全体像を把握しよう:公的保険でカバーされること
- 医療費の自己負担を3割に抑える
- 高額療養費制度(月の上限あり)
- 傷病手当金(会社員のみ)
- 出産育児一時金
- 老齢年金(65歳から)
- 遺族年金(家族が亡くなったとき)
- 障害年金(障害が残ったとき)
- 失業給付(失業したとき)
- 育児休業給付金
- 介護休業給付金
- 要介護認定を受けると介護サービスが1〜3割負担で使える
- 特別養護老人ホーム・訪問介護など
日本では生まれた瞬間から何らかの公的保険に加入しており、保険料を払っているかぎりは保障を受ける権利があります。ところが、実際にどの制度がどんなときに使えるのか、正確に把握している人は多くありません。この記事では、特に家計への影響が大きい ①高額療養費制度 ②傷病手当金 ③遺族年金 ④障害年金 を、2026年4月時点の情報をもとに詳しく解説します。
① 高額療養費制度:医療費に「上限」がある
病気や手術で医療費が高額になっても、1か月に自己負担する金額には上限があります。これが「高額療養費制度」です。
上限額は収入(所得区分)によって5段階に分かれています。収入が少ないほど上限が低く設定されており、住民税非課税世帯であれば月35,400円が上限です。
70歳未満の自己負担限度額(2026年4月時点)
| 区分 | 年収の目安 | 月の自己負担上限 | 多数回該当※ |
|---|---|---|---|
| ア(高所得) | 約1,160万円以上 | 252,600円+ (医療費-842,000円)×1% |
140,100円 |
| イ | 約770万〜1,160万円 | 167,400円+ (医療費-558,000円)×1% |
93,000円 |
| ウ(標準) | 約370万〜770万円 | 80,100円+ (医療費-267,000円)×1% |
44,400円 |
| エ(低所得) | 年収約370万円未満 | 57,600円 | 44,400円 |
| オ(非課税) | 住民税非課税世帯 | 35,400円 | 24,600円 |
※多数回該当:直近12か月に3回以上、高額療養費に該当した場合、4回目からさらに上限が下がります。
出典:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」(2026年4月時点)
80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1%=約87,430円
100万円の医療費でも、実質9万円以下の負担で済みます。
自分はどの区分か調べるには
所得区分の確認方法は、加入している健康保険の種類によって異なります。
- 会社員(協会けんぽ・組合健保):健康保険証に記載の「標準報酬月額」が目安です。わからない場合は会社の総務担当か、健保組合に問い合わせてみてください
- 自営業・フリーランス(国民健康保険):前年の住民税の「課税所得」で判定します。市区町村の国保窓口に問い合わせると教えてもらえます
- 住民税が非課税の方:オ区分が適用され、月の上限は35,400円です。低所得の方ほど手厚い仕組みになっています
世帯合算という仕組みも活用できる
同じ健康保険に加入している家族の医療費は「合算」できます。たとえば、同じ月に夫が50,000円、妻が40,000円の自己負担が発生した場合、合算して90,000円として計算し、上限額を超えた分が戻ってきます。ただし70歳未満は1人あたり21,000円以上の自己負担分のみ合算の対象になるため、少額の場合は合算できないことがあります。
おさえておきたい3つのポイント
- 同じ月・同じ病院でも「入院」と「外来」は別計算になります。まとめて計算されないことがあるので注意
- 差額ベッド代・食事代は対象外(高額療養費制度ではカバーされない。現金で用意しておくと安心)
- 限度額適用認定証を事前に取得しておくと、窓口での支払い自体が上限額までになるため便利です(後日申請して戻ってくる形ではなくなる)
高額療養費制度は、協会けんぽ・組合健保(会社員)だけでなく、国民健康保険加入者も使えます。ただし所得区分の判定方法が少し異なります。市区町村の国保窓口で確認できます。
限度額適用認定証の取得方法
入院が決まったときなど、事前に「限度額適用認定証」を取得しておくと、病院の窓口での支払いが上限額までになります。後日申請して戻ってくる手間が省けるため、入院前に取得しておくことをおすすめします。
| 加入している健康保険 | 申請先 | 備考 |
|---|---|---|
| 協会けんぽ | 全国健康保険協会 各支部 | オンライン申請(マイページ)可 |
| 組合健保 | 加入している健保組合 | 組合によって手続き方法が異なる |
| 国民健康保険 | お住まいの市区町村の窓口 | 窓口またはオンライン申請(自治体による) |
マイナンバーカードを健康保険証として登録している方は、病院の窓口でマイナカードを提示するだけで自動的に限度額が適用されるため、認定証の取得が不要な場合があります。
② 傷病手当金:会社員が病気で休んだときの収入保障
会社の健康保険(協会けんぽや組合健保)に加入している方は、病気やケガで仕事を休んだとき、給料のおよそ2/3が最長1年6か月間支給されます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 支給額の目安 | 直近12か月の平均標準報酬日額の約2/3 |
| 支給期間 | 最長1年6か月 |
| 待期期間 | 連続3日間休んだ後、4日目から支給開始 |
| 対象者 | 会社の健康保険(協会けんぽ・組合健保)加入者 |
| 対象外 | 国民健康保険加入者(自営業・フリーランス)は原則なし |
300,000円 ÷ 30日 × 2/3 ≒ 約6,700円/日
1か月(30日)休んだ場合の受取額の目安:約20万円
ただし最初の3日間(待期期間)は支給なし。有給を使った日も対象外のため、実際の受取額はケースによって変わります。
傷病手当金の申請の流れ
- 会社(総務や人事担当)に「傷病手当金を申請したい」と伝える
- 申請書(健保組合から取り寄せ、または会社経由で入手)に記入する
- 主治医に「労務不能であった期間」を証明してもらう欄を記入してもらう
- 会社の証明(休んでいた事実の確認)を受けて、健保組合へ提出
申請は1か月ごとにおこなうのが一般的です。入院中や療養中でも会社・病院と連絡を取りながら進められます。
国民健康保険には傷病手当金がありません(一部市区町村の独自給付を除く)。収入が止まるリスクを自分で備える必要があるため、就業不能保険の検討をおすすめします。
③ 遺族年金:配偶者が亡くなったときの備え
配偶者が亡くなったとき、要件を満たせば「遺族年金」が受け取れます。2種類あり、会社員の場合は上乗せがあります。
| 遺族基礎年金 | 遺族厚生年金 | |
|---|---|---|
| 対象者 | 18歳未満の子がいる配偶者または子 | 配偶者・子・父母など(子がいなくてもOK) |
| 加入要件 | 亡くなった方が国民年金加入中など | 亡くなった方が厚生年金加入中など |
| 年金額の目安 | 子1人の場合:約100万円/年 | 亡くなった方の老齢厚生年金の3/4 |
| ポイント | 会社員は両方もらえる(合算)。自営業は遺族基礎年金のみ | |
遺族基礎年金の受取額の目安(2025年度)
遺族基礎年金の基本額は年約816,000円です。子どもの人数によって加算されます。
| 子どもの状況 | 年間の受取額の目安 | 月額換算 |
|---|---|---|
| 18歳未満の子が1人 | 816,000円+234,800円=約105万円 | 約87,500円/月 |
| 18歳未満の子が2人 | 816,000円+234,800円×2=約129万円 | 約107,000円/月 |
| 子なし(または子が18歳以上) | 遺族基礎年金は受け取れない | ― |
※金額は毎年度改定されます。2026年度の金額は日本年金機構のWebサイトでご確認ください。
会社員の場合はこれに遺族厚生年金が上乗せされます。遺族厚生年金の額は亡くなった方の収入・加入期間によって異なるため、「ねんきんネット」や「ねんきん定期便」で目安を確認できます。「夫が亡くなったら生活できない」と感じている方も、遺族年金の試算をしてみると意外と備えになっているケースがあります。まず公的保障の金額を把握したうえで、不足分を民間の生命保険で補うという考え方が基本です。
④ 障害年金:病気やケガで障害が残ったとき
病気やケガで障害が残ったとき、年金が受け取れる「障害年金」という制度があります。
| 障害基礎年金 | 障害厚生年金 | |
|---|---|---|
| 対象 | 1級・2級に認定された方 | 1〜3級に認定された方(厚生年金加入中に初診日がある場合) |
| 年金額の目安(2級) | 約816,000円/年(2026年度) | 障害基礎年金に上乗せ |
| 子の加算 | 18歳未満の子がいると加算あり | ― |
・がん(治療中の就労困難な状態を含む)
・うつ病・統合失調症などの精神疾患
・糖尿病の合併症・腎不全(人工透析など)
・心疾患・呼吸器疾患
「よほど重い障害でないともらえない」わけではありません。
障害年金を受け取るには、初診日(はじめて病院を受診した日)に年金に加入していたこと、一定の保険料納付要件を満たしていることなどが条件になります。書類の準備が多く手続きが複雑なため、不安な場合は年金事務所の窓口相談や、社会保険労務士への相談も選択肢のひとつです。
申請で注意したいこと
公的保険の給付は、多くの場合「自分で申請しないと受け取れません」。制度を知っていても、申請しなければゼロです。主な申請先をまとめました。
| 制度 | 申請先 | 申請のタイミング |
|---|---|---|
| 高額療養費制度 | 加入している健康保険(または市区町村) | 診療翌月1日から2年以内 |
| 傷病手当金 | 加入している健康保険(会社経由が多い) | 休業開始から2年以内 |
| 遺族年金 | 年金事務所・街角の年金相談センター | 亡くなった後(期限なしだが早めに) |
| 障害年金 | 年金事務所・市区町村の国民年金窓口 | 初診日から1年6か月後以降が目安 |
「申請期限」があるものも多いため、いざというときに慌てないよう、この記事をブックマークしておくことをおすすめします。特に傷病手当金と高額療養費制度は、申請しなければ自動的に受け取れるわけではありません。いざというときに「知っていたけど申請しなかった」という後悔をしないよう、制度の存在を頭に入れておきましょう。
まとめ:公的保険を知ったうえで、民間保険を選ぼう
ここまで読んで「意外とカバーされているんだ」と感じた方も多いのではないでしょうか。
民間の医療保険や生命保険を選ぶときは、まず公的保険でカバーされない部分を把握し、そこを補う形で民間保険を選ぶのが基本です。
・自営業・フリーランスで傷病手当金がない → 就業不能保険で備える
・差額ベッド代など高額療養費の対象外費用 → 現金(貯蓄)で用意しておく
・遺族年金だけでは生活費が不足する → 定期保険(掛け捨て)で補う
・自営業で遺族厚生年金がない → 定期保険の保障額を多めに検討する
民間保険を見直すときの手順をまとめると、まず①公的保険で何がカバーされるか把握する、次に②公的保険だけでは不足する部分を洗い出す、そして③その不足分だけを民間保険で補う、という3ステップが基本です。この順番を守るだけで、保険料の払いすぎを防ぐことができます。
たとえば会社員の方であれば傷病手当金があるため、就業不能保険の必要性は下がります。一方で自営業の方は傷病手当金がないため、就業不能保険は優先度が高くなります。同じ「保険が必要かどうか」という問いでも、働き方や家族構成によって答えが変わります。
「自分の場合はどの部分が足りていないのか」を把握するのが難しい、という方はFP相談を活用してみてください。ミミサトでも個別のご相談をお受けしています。